【オーナー様のお悩み】1年間の放置によるエンジン不調
メルセデス・ベンツ専門修理工場、サカモトエンジニアリングがお届けする「一問一答」コーナーです。今回は、長期間の保管を経てエンジンが掛からなくなってしまった「126(W126)」にお乗りのオーナー様からのご相談にお答えします。
相談内容:1年間の屋内放置後、5気筒が爆発していない
1983年式 W126(左ハンドル・走行距離約9,800km)を所有されています。1年ほど屋内で放置していたところ、以下の症状が発生しました。
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エンジン始動不可: ガソリンを入れ替えることで始動はしたものの、車体に大きな振動がある。
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爆発不全: プラグを確認したところ、1番・7番・8番以外の5気筒が機能していない様子。
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排気異常: マフラーから生ガスが噴出している(ただし黒煙は出ていない)。
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交換済パーツ: インジェクター、燃料ポンプ、フィルター、各種リレー、プラグおよびコード類は新品に交換済み。
サカモトエンジニアリングによる診断とアドバイス
1. ガソリンの「化学変化」による影響
長期間放置された車両でまず考えられるのは、燃料の劣化です。ガソリンは時間が経つと化学変化を起こし、特有の臭い(ナフタリンのような臭い)を放つドロドロの物質に変わってしまいます。今回のケースでは、ガソリンの入れ替えで一度エンジンが始動したことから、燃料の劣化が原因の一つであったことは間違いありません。
2. フューエルディストリビューターの内部異常
この年代のメルセデスは、コンピューター制御ではなくアナログな「燃料の圧力差」で制御されています。 特に注目すべきは、燃料を各気筒に配分する**フューエルディストリビューター(分配機)**です。
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システムプレッシャー: ポンプからの吐出圧(メインの圧力)。
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コントロールプレッシャー: ディストリビューター内で減圧された圧力。
通常、この分配機の中で適切に減圧された燃料がインジェクターへ送られます。しかし、放置期間中に内部で固着や異常が発生していると、圧力が高いままノズルから燃料が出てしまい、必要以上の燃料を噴射して「被った(プラグが濡れた)」状態になります。これが5気筒死んでいるような症状の正体である可能性が高いです。
3. 「伏兵」の存在:微細なフィルターの詰まり
燃料フィルターは交換済みとのことですが、実は燃料ラインの中には普段目にすることのできない特殊な微細フィルターが潜んでいます。燃料タンク内に錆が発生していた場合、この「伏兵」が詰まることで正常な燃圧が保てなくなり、不調を招くことがあります。
今後の点検ステップ
闇雲に高価な部品(フューエルディストリビューターなど)を交換する前に、以下の手順での精密な計測をお勧めします。
1. オシロスコープによる測定
各シリンダーの燃焼状態を波形で確認し、点火系統のバラツキを視覚化します。
2. 燃圧ゲージによる計測
規定の圧力(システム圧およびコントロール圧)が出ているかを数値で確認します。
アナログ制御の車だからこそ、現在の圧力を正しく読み取ることが原因解明への近道です。
